夕端居

~マイペースな読書感想日記~

『きりこについて』 西加奈子

 

 

「きりこは、ぶすである。」という一文からはじまるこの小説。

物語の設定としては、猫と人間で会話ができたり、猫のIQが700以上もあったりと、ファンタジーな要素もあるのですが、描かれている問題はすごくリアルなことです。

 

きりこは両親からたくさんの愛情をうけ、すくすくと成長していきますが、好きだった男の子に「ぶす」と言われたのをきっかけに、引きこもってしまいます。自分は、周りから見ればぶすだったんだ、ということに初めて気がついて。

 

しかし、(ここが重要なのですが)きりこは「ぶす」と言われてからも、本当は自分の顔が大好きでした。人からバカにされようと、可愛らしい服を着るのが好きでした。

それを否定する権利は、誰にもありません。

 

その後、きりこはある女の子と出会い、いちばん大切なこと、「自分は自分だ」ということがはっきりと分かります。

 

「自分は自分だ」「他人の評価にとらわれてはいけない」なんていろいろなところで言われている言葉なので、今まで「知って」はいたけれど、「分かって」はいませんでした。でも、この物語の中でそれを強く訴えられたとき、初めてその意味が痛いほど分かりました。

 

もうひとつ、この物語には猫がたくさんでてきます。私はもともと猫が大好きでしたが、この小説を読み終えたときには、好きを通り越して尊敬の感情が芽生えていました。人間がなぜこんなにも猫に惹かれるのか、その理由がすこし分かった気がします。

 

この小説を読んで、私はたくさんのことが分かりました。だからといってきりこたちのようにうまくいくとは限らないけれど、「分かって」いるのといないのとでは絶対に違うと思います。

自分が分からなくなりそうになったら、またこの小説を読み返そうと思います。

 

「きりこは、ぶすである。でも、きりこはきりこだ。